愛しいほど遠い記憶

君が叶えてくれたのか 必然の奇跡か

『二十日鼠と人間』について

10月3日、三宅健くんの主演舞台『二十日鼠と人間』が東京グローブ座で開幕した。
健くんにとって4年ぶりのストレートプレイ。5年ぶりの主演舞台。
自分にとって初めての健くんの主演舞台がこの作品で良かったなと思っている。
すごーく色んなことを感じて、考えたこの一週間。
しかし内容が内容なのでTwitterでは何もつぶやけないのでこっちで好き勝手書いておく。

以下、ネタバレを多数含むので自己防衛をお願いします。




















ジョージとレニーの関係性
物語が始まり、健くん演じるジョージと、章平くん演じるレニーが舞台上に現れる。
ジョージはレニーに対してものすごく強い口調で怒鳴り、蹴り、ナイフを向けるまでする。こんなに激しい人を見る機会ってなかなかないから、初日に観た時びっくりした…
でもレニーに「一緒にいてほしいよ」と言ったり、小さな土地を買う夢の話をしてあげたり、缶詰のふたを開けられないレニーのを無言で開けてあげたりしているジョージはとても優しくて…
ああ、こうやってずっと一緒に過ごしてきたんだなあって、描かれてないこれまでの何年もの年月が見えたような気がした。
レニーにとってジョージが大切なのは分かりやすいけど、一見そうではなさそうなジョージにとってもレニーはほんとにほんとに大切なんだというのがこの最初の2人のシーンでよく伝わった。そうじゃなきゃ何年もの間、一緒に行動出来ないよね。
「お前がいなけりゃ、もっと楽に生きられるのに」
これは、ジョージの本心。
でもレニーがいなければ自分は生きていけない、ともジョージは思っている。
なんて複雑なんだ…そんな複雑な思いを抱えながら長い間行動を続けている2人。
この2人の関係性は、健くんと章平くんだから作り出せたんだなとも思う。一緒に行動するのは大変だろうけど、ほんとに愛らしいもんね、章平くんの演じるレニー。


2人の夢の話
この作品では、2人で小さな土地を買って自分達の農場を持って…という夢の話が何度も出てくる。
このお話をしているジョージとレニーの2人のやりとりが本当に楽しそうで、希望に溢れていて、大好き。
ジョージもこんな風に笑うんだな〜って思ったり。
ただ、原作を読まずに観劇したけど、雑誌で健くんが語ってるのを読む限り、夢を叶えてめでたしめでたし、みたいなお話になることは絶対ないことは分かってたので、初見のときからきっと夢は叶わないんだろうなと思って覚悟して観ていた。
でもまさかこの夢の話がラストシーンであんな風に効いてくるとは思わなかった。おかげで二回目以降の観劇では、一番最初の夢の話のところから泣けてしまって困る。
2人の夢の話。これは子守唄のようなもので、過酷な日々を送るジョージが心の安定を保つためのものだった。
1人でだって世の中を上手く渡って行けそうなジョージだけど、実際はこうでもしないと生きていけないくらいだったんだなと思うと、切なくて、愛しい。
さらに、数回目の観劇で気づいたんだけど、一番最初に夢の話をするときは土地が2エーカーなのに2回目は10エーカーなの。たぶんジョージは、無意識。夢が勝手に大きくなってる。ああ、やっぱりどうしようもなく切なくて悲しくて愛しい…
そしてラスト。レニーに銃を向けながら、泣きながら、絞り出すように夢の話をするジョージ。レニーに川の向こう側を見るようにさせて「うさぎの世話はお前がする!」と叫びながら後ろからレニーを抱きしめる。ジョージはそこで、レニーに最後のお別れをしたように感じた。そこからの「きっと良い所だ、面倒もない、良い所だ…」というような台詞は、2人の夢の土地の話をしているようで、レニーがこれから行く場所、天国のことを言っているように思えた。
何度も繰り返してきた話の意味合いがこうも変わってしまうとは…。
そして、ジョージはレニーに向けて引き金を引いた。
この結末については、ジョージがレニーを想ってとった行動とも、ジョージが強い束縛から開放されるための行動とも、色々な捉え方ができるけれどわたしはジョージの最後の愛情表現だと思いたい。一番優しくて悲しい最後。
このあとジョージはどうなるんだろう…。あそこで終わることで、余白が残されていて色々考えることもできるなあと思った。


この直後のカーテンコール。さっきまでジョージだった人が健くんに戻り、最後は章平くんにお姫さま抱っこされて手をひらひらさせながら去っていく。
物語のジョージとレニーとは違う、幸せな光景を見せてくれるのは健くんたちの優しさだろうか、と思ったり。


今日は初めての休演日。舞台はまだ始まったばかり。自分の感じ方も、皆さんの演技も変化があるだろう。
また次『二十日鼠と人間』の世界に連れて行ってもらえるのを楽しみにしながら日々を過ごしたいと思う。